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(R18/美少年/恥辱/男娼/義兄弟/元ショタ)「少年遊戯」

「少年遊戯 壱」

 一、三人の子供

「はぁ……はぁ……」
 寝静まった暗闇の街に、ふらふらと力なく歩く少年の足音と湿った呼吸の音が響いた。
「……もう……終わりだから……」
 少年がこう口にすると、凍てつく空気は白く濁り、言葉はか細く消えていった。少年はうつろな表情にただ一点を見つめ覚束ない足取りに、力のない手には数枚の紙幣が握られていた。袖から見え隠れする細い手首には真っ赤な縄の痕がくっきりと浮かんでおり、首には赤い痣が無数にあった。
 少年は手首をさすりながら、さっきまでの出来事を思い出すとうつろな表情のまま鼻で笑った。
 ……今日もお呼ばれされた。
 役者になってすぐについた、なじみのパトロンだった。白髪頭に酒で肥りに肥り、六十を超える老人だというのに淫欲だけは飢えたように旺盛だった。
 いつものように添い寝の相手かと思っていたが、歌が聴きたいと宴席に引きずり込まれた。パトロンの前で歌や芝居をするのは常であり別段おかしいとも思わなかった。
 だが、宴席に出るなり真っ先に体を取り押さえられ、見世物のように服を剥がされ全裸にされた。体中を縛られ酒や料理が乗っている卓に繋がれた。丸出しにさせられた秘部と顔は色とりどりのランプで照らされ、十数人の好奇の目のなか、叫ぶ間もなく順番に尻を犯された。
 泣き叫ぼうにも口は老人の陰茎で塞がれ、もがこうにも髪を掴まれ縄で身動きが取れない。懇願の眼差しを向けるが、肥りに肥った老人たちは酒で顔を真っ赤にさせながら自分を見ていやらしく笑うだけだった。肉のついた柔らかい指で乳首を撫で回し、萎えきった竿をぐにゅぐにゅと揉みしだき、喘ぎ声を忘れれば殴られた。醜い声と笑い声とともに腹に大量の精液を浴びさせられ、同時に口の中にも青臭い精液を吐き出された。込み上がる吐き気とともに恥辱と苦痛をぐっと飲み込んだ。
 いつものことだった。
 どれもこれも、すべて役者で成功するためだった。国家の劇団に入るためだった。
 だが、それも今日で終わりだった。
 政治は慢性的に続く内戦で腐敗し人々の生活は貧しく、苦しかった。また一部の都市が西洋国に支配され植民地になっていた。そんな中、人々は日常を逃避するように芝居に熱中した。豪華絢爛な衣装に、奮い立たせる演目に歌や台詞、息を飲む立ち回りに、豪華絢爛できらびやかな衣装。街中の劇場は連日満員だった。
 それに合わせて街には役者の養成所が合わさった私営の劇団が無数に存在し、貧困層の家庭が幼い子供を劇団に売ることは風習となっていた。
「終わり……だから……」
 自分も貧しい家に生まれ、二歳の時に劇団に売られた。街で名門といわれる劇団院に入れたものの、殴る、蹴る、打たれるの体罰に近い稽古は十年続いた。
 だが、苦痛な稽古から解放され、いざ舞台に立てるようになると、今度はパトロンや贔屓の客がついた。
 女が舞台に上がることは汚らわしいとされる時代、役者は男の仕事であった。
 女形もこなす自分にとって、パトロンとの付き合いは無論体を売ることだった。
 昼は舞台に上がり、夜は惜しみなく体を売った。男の自分が男に体を売り、辱めを受ける。マフィアや劇団や劇場の運営に関わっているパトロンに逆らえば役者としてやっていけなくなる。
 国家の劇団に引き抜かれれば、名誉も高収入も一気に手にすることができた。だが、国家の劇団に引き抜かれるには街一番の有名役者になるしかなかった。街で名を上げるにはパトロンとの関係は欠かせない。
 ……街の役者である限り永遠に体を売らなくてはならない。売れる時期はいい、年をとって使い物にならなくなったらどうする。また、役者を辞めて今の自分に何ができるのだろうか。結局、悪趣味な金持ち相手に体を売るしかない……。
 終わりのない苦痛と暗闇に気づいたとき、とてつもない空虚さに襲われた。
「叶わないなら……終わりにしよう……」
 今さら両親の顔など覚えていない。自分が消えたところで何も起こらない、何も変わらない。自ら命を絶つことで 終わりにできると思うと、この空虚さから少し解放され、楽になった。
「…………」
 頬に冷たく心地良い風がかする。握っている紙幣も、痛む手首の痣も、掻き乱された尻の痛みももはや自分のことでないような気がした。
 少年はさっきのうつろな表情をいくらか明るくさせ、またふらふらと覚束ない足取りで歩き始めた。川に身を投げるべく街の大橋に向かう。
 息を白くさせ華奢な背中を丸めながら進む少年を、青い月だけがじっと照らしていた。


「院長、あの女、夕方からずっと門の前で伏せてます」
 使用人の言葉に院長と呼ばれた中年男は、とばりを上げ窓から門を眺めた。確かに、頼りない外灯に照らされた、朱色の門の下に女が一人頭を下げて伏せていた。こんな夜中にしかも雪でも降りそうな底冷えのなかである。さらに女の隣には小さな子供もいるようだった。明らかに入団希望の子供だった。だが、このところ貧窮を事情に、子供を劇団に売り飛ばす家が後を絶たず、この劇団ももう子供で溢れかえっていた。
 院長はもう一度、とばりから寒さで震えながら頭を下げる女を見ると使用人を呼んだ。
「お願いです! この子を劇団に入れてください!」
 使用人に連れられ子供を抱きかかえた女は、院長の顔を見るなり、平伏すように頭を下げた。
 女の隣には、寒さをしのぐためなのか、黒い布を頭から何重にも巻かれた二、三歳の子供が立っていた。
「あいにく、うちの劇団はもういっぱいなんだが……」
 蓑虫のように顔すら見えない不気味な子供を院長は怪訝そうに眺めた。
「この子は発育も良く体もしっかりしております! 目鼻立ちも整っております!」
 母親は突っ立っている子供も伏せさせ、寒さと涙で真っ赤になった顔を見せつけると一層頭を深く下げた。
「もう良い、はやくこの子供を見せろ」
 見苦しい母親の懇願に院長は椅子に腰を下ろしながら苛立たしげに声を上げた。
「……はい」
 母親は震えた声で言うと、汚れた指先で子供に巻きつけてある布をほどき始めた。
「っっ!」
 だが、布の間から獣のような茶色い毛が飛び出し、翡翠のような深い緑色の目がギョロギョロと動くと院長は目を丸くし椅子から飛び上がった。
「なっなんだこいつはっ! 混血児じゃないかっっ!!」
 院長は怒声をまき散らしながら、茶色い髪と緑色の目を持った忌々しい子供を突き倒した。
 都市部の植民地化が進んでいるせいで、社会的に西洋人が忌み嫌われていた。彼らの婦女暴行も後を絶たなかったが、金に困って彼らに体を売る女も後を絶たなかった。だがそんな女は街から蔑みを受け、子を孕もうものなら生き恥と称され、生まれた混血児も同じ対象にされていた。
「リンっ!」
 母親は倒された子供にすがりつくと、また院長の顔をじっと見つめ、地味な顔を涙で汚した。
「お願いですっ! この子を劇団に入れてくださいっ! 父親はっ、父親はもうこの国にはいないんですっ! もういないんですっ! どうか、どうかこの子を劇団に入れてくださいっ! 私のわずかな稼ぎではこの子を育てられないんですっ」
「うるさいっ!」
 院長はこの醜い母親の頬を叩くとさらに続けた。
「人が情で中に入れてみれば、混血児だなんてっ! うちは混血児を受け入れるほど低俗な劇団ではないっ」
「お許しくださいっ! お願いしますっっ」
 母親は床を這いずりながら院長に頭を下げ、喉がはち切れんばかりの悲痛な声で懇願した。だが、院長はその汚れた手を蹴り上げ、子供のリンにまで足を出した。リンの顔にも砂が飛び散ったが、リンは不気味な緑色の目でじっと院長の顔を見つめた。
「父親がいないだと、父親が誰か分からないの間違えだろ! ふざけるな! 所詮お前みたいな醜女は誰にも相手に されず金に困って西洋人に体を売ったんだろっ! 売女にも用はないっ! 出て行けっ!」
 院長は生意気なリンの目が気に喰わず、またリンを突き倒すがリンはむっくりと立ち上がりまたじっと院長を見つめた。それと同時に数人の使用人が掛けてき、母親とリンを押さえ込んだ。
「お願いしますっっ! 何でもしますっ! 私はどうなってもいいんです! 劇団に入れてくださいっ! この子を劇団に入れてくださいっ!」
 使用人に引きずり出されながらも母親は暴れ、声を上げるのを止めない、その悲痛な叫びは寝静まった子供たちの部屋や明かりのない冷たい稽古場や中庭まで響き渡った。
「…………」
 だが、担がれながら幼いリンは声を殺し唇を噛みながら、じっとその緑色の目で院長を睨み続けた。
「なんだその生意気な目はっ」
 使用人の一人がそう声を荒げると、リンの白い頬を思い切り叩いた。
だがリンは緑色の鋭い目つきで使用人を睨み返した。そして、おもむろにズボンを下ろし幼いおちんちんを掴むと、勢いよく小便を使用人に向けて噴射させた。
「っっ! このクソガキがっっ!」 


 暗闇の中に冷たく湿った空気を感じると、濁流の音が聞こえてきた。これから自分を飲み込もうとする濁流の叫びは無意識に自分を惹きつけ覚束ない足どりも吸い込まれるように軽くなる。酷い眠気のように頭は朦朧とし、ただやっと終わるという安堵しか浮かばない。
 あと数歩で頼りない街灯と青白い月明かりに照らされた大橋が見えてくる。
「っっ!!」
 だが、少年は大橋を見ると虚ろだった目をぐわっと見開き、橋に駆けて行った。
「やめろっっ!!」
 少年が駆けた先には、一人の女が幼い子供を掲げ、今にも川に投げ落とそうとしていた。 
「っっ」
 少年に腕を掴まれた女は子供を抱えながらその場に倒れ込み、乱れた髪のまま顔を上げた。
「っっ!」
少年は女と目が合うと更に目を見開き、息を飲んだ。
 ぞっとするほど、背筋が震えるほど美しい女だった。面のように恐ろしく整った顔の女だった。
 整った眉に儚くも艶めかしい瞳、真っ白い顔に形のいい唇だけが紅をさしたように赤かった。汗ばんだ細いうなじには束ねた髪から漏れた黒い髪が淫らに絡まっている。青白い月明かりと覚束ない街灯がいっそう女を妖艶に映し出した。
「なぜ止めるの? ここに来るってことは、あなたも死のうとしていたんでしょ」
「っっ」
 女の異様な美しさと艶めかしさに少年は微動すらできずにいると、濁流の音に紛れ女の消えそうな声が聞こえた。
 女の抱きかかえる子供は眠っているらしく、蓮や蝶などの刺繍のされた紅い派手な布でくるまれていた。対する女は美しい顔以外、体を隠すように真っ黒なマントを羽織っており、マントの裾から見える着物も質素なものだった。
 女は子供を抱きかかえたままふらふらと立ち上がると、目の前の少年をじっと見据えた。
「……あたし、もうこの子を育てられないの……」
「え……」
「あなた、役者でしょ、きれいな顔をしてるもの」
「……そうだけど」
 まっすぐ見つめてくる女に、少年は小さく答えるがすぐに唇を噛んだ。役者といってもそれは昼間の間だけで、夜になれば男の自分は男に体を売る。これほど惨めで屈辱的な仕事はない。しかも、自分には役者しかないのだ……そう思うと羞恥心と悔しさで溢れ胸が熱くなってくる。
「毎晩毎晩、男に体を売るんだ……今日だって」
「うらやましいわっ」
 少年の言葉を遮るように、女は強く言い放ち、鋭く少年を睨みつけた。
「え……」
 予想もしない女の言葉に少年は気の抜けた声を出した。
「それでもお金になるじゃない、見なさいよ……」
女は薄ら笑いを浮かべながら、子供を抱えていない手でそっと真っ黒いマントを広げた。
「っっ!」
 マントから覗く女の体に少年は血の気が引き思わずぎゃっと声を上げそうになった。
そこにある女の体は人間の形をしていなかった。
 首から下はまるでこぶが張り付いているようにぼっこりぼっこり拳の大きさほどの無数の肉塊が腫れ上がっており、それが胸部に所狭しと密集しておりどれが乳房だかわからない。しかもそれらすべてが赤黄色く熟し体液や膿が滴っている。
 異形な体はもはや着物も上手く纏えることができず、かろうじて結んでいる腰紐も膿で黄土色に汚れている。そういえば、さっき掴んだ女の腕も異様に柔らかかった。少年はその感触を思い出すとまたぞっと背筋を震わせた。
「痛いの、痛くて痛くて気が狂いそうなの」
 女の美しい指が指す先には破れたこぶが酷く橙色に熟し膿が溢れていた。
 女はゆっくりと首をあげ闇夜に浮かぶ青い月に目をやった。
「生きたくても生きられない……この子を育てたくても育てられない……なじみの客も逃げて行った、こんな体じゃ淫売もできないわ」
女は大人しく寝息を立てぐっすりと眠るわが子に穏やかな眼差しを向けた。その瞳はいささか涙が浮かんでるようにも見えた。
「…………」
 少年は女の衝撃的な姿と告白にただただ表情を歪ませ女から目が離せなかった。
「生きようと思えば生きれるじゃない、役者のあなたが死ぬほどうらやましい……あなたにここで死ぬ人間の事なんてわかりっこないのよ」
 女は自虐的な笑を含みながらぼそぼそと言った。
「……っ」
 その言葉に少年は何も答えられず、ただただ羞恥心に似た熱が体じゅうに湧き上がり誤魔化すように足元を見つめ拳を握った。同時にギリギリと後味の悪い感情も込み上がってくる、自分とこの女の境遇を比べ無残にも胸を撫で下ろすのだった。
「…………」
「…………」
「っ……ぐっ……っ」
 女は急によろよろと大橋の手すりに手をつきその場にしゃがみ込んだ。
「っ……痛いのっ……この子を抱いててくれない」
 女は切れ切れの呼吸で膿の溢れる胸を押さえ、子を抱えている手を震わせながら少年の方に伸ばした。
「あっ……」
 少年は言われるがまま、慌てて紅い布に包まれた子を抱えた。だが、予想以上の子の重さに少年は足をふらつかせ抱きかかえたまま尻餅をついた。少年は抱きかかえた子を覗き込むが、子は布に顔を埋めぐっすりと眠ったままだった。二、三歳であろうか、見える横顔だけでは男とも女ともつかない。
「……あなた……名前は?」
 女は手すりにしがみつきながら前かがみで立ち上がった。地面にはもう膿ばかりかぽたぽたと血まで垂れている。
「カーイエン」
 少年が名乗るとさっきまで大人しかった子供が咳に紛れてぐずり始めた。カーイエンは布の中で暴れる子供をあやしながら立ち上がり、険しい表情で女を見つめた。
「…………」
「…………」
 一瞬沈黙が訪れた。忘れていた濁流の音ははっきりと耳に聞こえ、湿った空気は吐く息とともに白く濁った。女は無表情でカーイエンの方をただ一点に見つめながら、力のない手で血と膿の溢れる胸を押さえている。
 その沈黙を破るように、カーイエンの腕の中にいる子供はいよいよ幼い泣き声を漏らし始めた。それと同時に女も痛々しい体をがくがくと大きく震わせる。
「……この子はユエシェンっていうの……」
「え? 何?」
「カーイエン……助けてくれて、ありがとう……うれしい」
 女のか弱い声はけたたましく泣き始めた子の声に掻き消された。女の言葉を気に留めることなく、カーイエンは暴れ泣く子を抱き直しながら、救いを求めるように困惑した表情で女を見た。
 女は答えずさっきまでの苦痛な表情を消し、恐ろしく整った美しい顔に微笑を浮かべるだけだった。
 そして、寝転がるように手すりに倒れ、そのまま濁流へと身を落としていった。
「っっ!!」
 カーイエンは子を抱いているのも忘れ、女のいた場所に駆け、目を剥き出して川を覗き込んだ。
 だが、荒々しい濁流は漆黒で何も見えず、ただ怒号に似た濁流の叫びが聞こえるだけだった。
「……っ」
 おぼろげな月明かりが時折流れを照らし、薄っすらと白く光るのは女の白い顔にも見えなくなかった。
「…………」
 力の抜け落ちた体にカーイエンは手すりにもたれながら、ずるずると地面に座り込んだ。手を付いた側に、まだ乾いていない女の血膿が垂れていた。あっという間だった、止める術もなかった、助ける術もなかった、女は笑みを浮かべながら目の前で落ちて行った。
「…………」
 声を発そうとしても上手く出ず、口は情けなく半開きになる。女の消えそうなか弱い声がまだ生々しく耳に残り、 女の美しさに震えた背筋の感覚もまだはっきりと残っている。思考はうまく働かず、女が落ちる様子ばかりが繰り返し頭に浮かんでくる。
 女は死んだ。
「ぎゃぁぁぁっっっ!!」
「っっ!」
 絶叫にも似た泣き声に、カーイエンは今更子供を抱いていることを思い出した。カーイエンは暴れる子供を自分の膝から下ろし、体を押さえながら包まれている赤い布に手を掛けた。
「ひっ!」
 だが、子の顔が露わになり始めるとカーイエンの手はぴたりと止まり、そのうち小刻みに震え始めた。
 子供の顔は恐ろしいほど整っており、まるで……まるであの女の生き写しだった。
「っっおっ、おかあさんっっ、おかあさんっっ」
 布から出てきた子は涙と鼻水で顔を真っ赤にさせながら、見覚えのない少年の顔を見ると怯え逃げるように辺りをきょろきょろと見回し母親を探した。
「…………」
「おかぁさんがいないよぉっっ」
 だが、母親の姿が見えないと、子はその場にへたれこみ幼く小さな手で赤い布を掴みながら、また大量の涙と鼻水を溢れさせた。
「…………」
 小さな体を必死に赤い布にしがみつかせ、お母さんお母さんと泣きわめく悲痛な子の姿をカーイエンはじっと見つめた。         
「そんなに……泣かないでよ……」
 カーイエンは子の鼻水と涙で汚れている顔を拭ってやった。
「俺まで……泣きたくなっちゃう……っっ」
 カーイエンはすがるように子を強く抱きしめ、声を上げて泣き崩れた。


「一体お前は何を考えているんだっっ!」
 もう日付はとっくに変わっていた。寝静まった劇団内に院長の低い怒声が響き渡った。
 院長は顔を真っ赤にしながら、足元に土下座する弟子のカーイエンを怒鳴りつけた。カーイエンの側には幼い子供がしがみついており、怯えた目を院長に向けていた。
「院長、お願いです、この子供を劇団にいれて下さい」
 カーイエンは頭を下げながら、しがみつく子供をぎゅっと寄せた。
「何を言っているんだ! だめだっ! だめだっ! どこの馬の骨かも分からない子供を引き取れるわけがないっ!」
 それはどの子供も同じだったが、さっきの混血児の件が院長にこう言わせた。
「お願いします」
 カーイエンは頭を上げることなく、じっと院長の足元にうずくまった。
「さっきも一人断ったんだ! 劇団は子供で溢れかえってる、カーイエンお前だって分かっているだろ!」
「…………」
 確かに劇団は子供で溢れかえっていた。稽古中もびっしりと子供が詰め込まれろくに立ち回りの稽古などできない、薄汚い寝所などは部屋に入りきらない子供たちが廊下にまで溢れていた。
「第一、何だその子供はっ! 貧弱で今にも折れそうじゃないかっ」
「でも恐ろしいほど顔が整ってます」
「ふんっ! 何が整っているだ、見てみろっ、色なんか気味が悪いほど白いじゃないかっ! 疫病持ちだったらどうするんだっ! いや、病気持ちに違いないっ!」
「…………っ」
 カーイエンはさすがに言葉を詰まらせた。あの女の病みきって崩れ落ちた体が脳裏に浮かぶ。
「カーイエン、何度も言わせるな、戻して来い」
「……この子にはもう両親がいません、どうかお願いします」
「だめだ、戻すのが無理なら川にでも投げて来い、どうせ戻しても投げても行く末は一緒だ」
「っっ!」
 この言葉を聞くとカーイエンは急に立ち上がった。
「何だ、文句でもあるのか」
「…………」
 カーイエンはじっと無表情で袖を探り、数枚の紙幣を取り出すとそのまま地面に叩きつけた。
「っ! 何だこの金はっ」
 院長は怪訝な表情で弟子を見るが、カーイエンは足元に子供を置き去りにしたまま、勢い良く部屋を飛び出した。
 だが、すぐに荒々しい足音を立てながら部屋に戻って来ると、今度は札束をいくつか院長の前に叩きつけた。
「足りませんか、この金じゃっ! この子の費用足りませんかっ!」
「カーイエンっっ!」
「足りませんかっ」
 カーイエンは院長の足にしがみつき、頭を振り乱して懇願する。
「カーイエンっ、やめろ、落ち着け!」
 いつも大人しく従順な弟子が半狂乱に金の散らばった上でわめき足にすがりついて来る。その様子に見ていた子供も鼻水をすすり口をへの字に曲げぐずり始めた。
「カーイエンっ! 離せっ!」
 院長が足を蹴り上げると、カーイエンは地面に転がりうずくまった。
 だが、カーイエンは唇を噛みながらむっくりと立ち上がり、鋭い目を院長に向けると自分の胸元に手を掛けた。
「なっ何をするんだっ!?」
 カーイエンが忙しなく手を動かすたびに、服ははだけ足元に落ちていった。
「…………」
「やめなさいっ!」
 みるみる、少年の細い体が露わになってゆき、ためらいもなく尻も秘部もあからさまになってゆく。
「っっ」
 院長はその少年の体が露わになるごとに息を呑み目を丸くさせた。
 その体は全身に赤く小さな痣が無数にあり、手首や足首、太ももの大きな痣は縄目のあとがくっきりと浮き出ていた。乳首や尻、下半身には厭らしさを目の当たりにするように肌を吸われた痕や歯型が集中し、複数の相手に付けられたものだと容易に想像出来た。極めつけは見せ物のように陰部の毛がきれいに剃り落とされている。
「……っ」
 どれもこれも、芝居の稽古でついた傷ではない。きっとパトロンやなじみの客につけられたものだろう。院長は見ていられないと、顔を背けようとするがカーイエンはゆっくりと院長に近づいた。
「毎晩毎晩、辱めを受けて……耐えられなくて、俺は今日死のうと思いました……でもこの子に会って、やめました……今度は俺が、この子を助ける番なんです」
 カーイエンは涙の溢れそうな表情にぐっと唇を噛み、再び院長の足元に土下座した。
「お願いしますっ! 必ず役者として成功して見せます! もっとパトロンも、贔屓の客もつけて見せます! この子を弟のように厳しく育てます! 絶対役者にして見せます! お願いしますっ! この子を、ユエシェンを劇団に入れてくださいっ!」



二、兄弟


 九年後

「はぁっ……んっ……はぁ……っ」
 陽が射し始めた朝方に赤く薄いとばりで囲まれた寝台から、少女とも少年ともつかないか細い喘ぎ声が聞こえてくる。
「んぁ……兄さんっ……っ」
 赤いとばりの中では、ユエシェンがほっそりと伸びた脚であぐらをかき、前のめりになりながらまだ毛も生えていない性器に手を当てていた。細い指で蕾のように皮の被った先端をこりこりといじり、もう片方の手は袋と細い竿を擦り上げる。いずれも顔や体同様に汚れなく透き通るように白く、蜜の溢れる先端だけが恥じらいを表しているかの如く真っ赤に膨れていた。
「はぁっはぁっ……っはぁっ」
 亀頭をいじくる人差し指と親指はぬるぬると先走りが溢れ、指を動かすたびに細い糸を引き、くちくちといやらしい音が響く。腰を突き抜ける快感にユエシェンの細い腰と太腿は不恰好にわななき、下半身に吹き溜まる熱は胸にまで溢れ乳首までじんと痺れる。ユエシェンは袋を擦り上げる手で小さく立った乳首をつまみ上げた。
「ひあぁっっ」
 予想以上の快感にユエシェンは美しい顔をしかめ、さらに前かがみになりながらぐりぐりと乳首を摘み、激しく亀頭をこね回した。
「はぁっ……兄さんっ……んあっ……はぁっはぁっ……っ」
 顔や声同様に、まだ大人になっていない華奢な体は少女とも少年ともつかない。ユエシェンはその細い体を震わせ快楽を噛みしめながら今までのことを思った。
 数か月前からやっと役者として舞台に立たせてもらえた。豚箱のような寝床から解放されたくて、何よりも自分を拾ってくれたカーイエンの側に行きたくて死ぬ思いで九年間稽古に耐えてきた。体罰が当たり前の稽古に堪え、歌も演技も立ち回りも別段優れているわけではない自分は顔だけが取り柄で、院長や師匠、年上の役者たちに媚を売り、まわりの練習生を蹴落としやっと役者の道を掴んだ。この劇団院では役者になれると個人の部屋を与えられられ、自分はカーイエンの承諾を得て望み通り同じ部屋で暮らせるようになった。
「んあぁ……っんあぁっ」
 だが、兄と一緒の部屋で眠るようになると今まで隠れていた思いが噴き出すように、毎晩毎朝体中が熱くなりこうやって自慰を覚えいじくった 。
「っあっあっ、カーイエン兄さんっっ……んあっ!」
 ユエシェンは目の前で眠る兄の顔を見ると、真っ赤に膨れ上がった亀頭を震わせ両手いっぱいに精液を吐き出した。
「っ……っん」
 ユエシェンはビクビクと腰を震わせ、快楽に惚けた顔でじっと兄の顔を見つめた。
 自分は幸せだ……紛れもなくそう言い切れる。
朝目覚めると隣に当たり前のように兄がいる。稽古中も兄のことだけを考えて、公演では兄と同じ舞台に立ち、兄を見つめて演じる。夜眠るときも兄は隣にいてくれる。四六時中兄のことを考えて生活できることが嬉しかった。覚えたての自慰もこれ以上の欲を望まず、ただただ今の状況に満足していた。
「……っ、ふふっ……っふふふっ……っ」
 ユエシェンは不気味な笑い声を漏らし、最高の幸せを噛み締めながら手に溢れる自分の精液を啜った。



つづく!
つづきは電子書籍「少年遊戯 壱」か同人誌「少年遊戯 壱」で
(電子書籍と同人誌では若干内容ラストが異なります……)
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